東京高等裁判所 昭和40年(う)2551号 判決
被告人 高森道行
〔抄 録〕
論旨は、原判決は被告人が佐藤安弘と共謀のうえ拳銃および実包を不法に所持した事実を認定したが、被告人は、右佐藤が倉本広文と本件物件の取引をするに当り、佐藤をその取引場所に案内して両名を引き合わせたに過ぎないのであつて、本件物件を手にしたことがないばかりでなく右両者間にいかなる物件が授受されたかさえ知らないのであるから、被告人の本件所為は単に正犯たる右佐藤の本件物件不法所持の犯行を幇助したものというべきである。しかるにこれを共同正犯と認定した原判決には判決に影響をおよぼすことの明らかな事実の誤認があり、破棄を免れないというにある。
よつて按ずるに、原判決摘示の佐藤との共謀による拳銃および実包不法所持の事実は挙示の証拠によつて優にこれを肯認することができる。即ち、佐藤安弘および倉本広文の司法警察員に対する各供述調書謄本、被告人の司法警察員および検察官に対する各供述調書を綜合すると、被告人が昭和四〇年二月初旬頃神戸市内の喫茶店においてかねて知合いの佐藤安弘と同席していた際、偶々来合せた同様被告人の知合い倉本広文が拳銃を入手したい希望を表明したが、これを傍らで聞いていた佐藤はかねて松本忠から本件拳銃および実包の売却方を頼まれていたものの、倉本とは初対面であつてその身元に不安があつたところから、その場ではそのことを言わず、同人の立ち去つた後、被告人にその売却方を依頼したので、被告人は即座にこれを引き受け、倉本と電話で交渉した結果、同人と本件物件を代金一四万円で売買することを約し、かつ、その受渡しの日時、場所をも約束して、その場にいた佐藤にこのことを伝え、同人もこれを了承したこと、かくて、その翌日、被告人は、右約束に従い佐藤とともに本件物件とその代金の受渡しを果すためタクシーに同乗し、途中原判示中川荘内の前記松本方から本件物件を受け取つて来た佐藤とそれが拳銃および実包であることを認識しながら終始同伴して約束の受渡し場所である原判示聚楽館前に至り、同所に出向いて来た倉本に佐藤を引き合わせた上、倉本の乗つて来たタクシー内において隠密の裡に被告人の面前で佐藤をして倉本に本件物件を引き渡させ、次いで大阪市内に至つて佐藤が倉本から代金一四万円を受領したことおよび被告人はその帰途前記松本方で同人から礼金五〇〇〇円を受領したことが認められる。以上の事実関係からすれば、被告人と佐藤とが互いに意思を通じ原判示の日時、場所において共同して本件物件を不法に携行所持したものであることは明らかであつて、被告人がたとえその間右物件を手にしなかつたとしても、被告人が右不法所持の正犯たる地位を免れ得ないことはいうを俟たない。その他記録を調査しても以上の認定を左右するに足る証左は存しない。さすれば、被告人に対し共謀による本件物件不法所持の事実を認定した原判決は正当であつて、所論のような事実の誤認はない。論旨は理由がない。
(松本 海部 石渡)